本の紹介

本の紹介

Last modified: January 9, 2024

自分自身に大きな影響を与えた本について紹介します.


職業としての編集者

吉野源三郎氏の回顧本.吉野氏が岩波新書の立ち上げにあたりどのような心構えをもって挑んだのかという点は,とある新書の出版という枠にとらわれず公共へ出版 (publish) されるモノがどうあるべきかという思想を明示する.こういった思想は,論文のレビュアーを年に数回受けることがあるものの,論文の編集や雑誌・本の編集には携わったことのない私に新たな考え方を教えてくれた.良書.



対称性 不変性の表現

様々な対称性について数学的観点から俯瞰し,それらが一冊に凝縮された本.「ある数学的構造の対称性とは,その構造の特定の性質を変えないままにする特定の種類の変換である.ただし,変換は可逆であることが条件.」とあるように,全てはこの二文に集約される.個人的に興味深かったのは,平坦かつ均一な砂漠で,風が規則的に吹き続ける条件下で砂丘のパターンにに関する考察の部分だ.卓越風は対称となるものの,地上付近の砂漠にはいくつものパターンが形成される(非対称)そうだ.熱帯海洋上での湿潤対流の組織化に近いものを感じた.



君たちはどう生きるか

1930年代の軍事主義が漂っていた時世に,次世代を担う少年少女たちに対し,自由で豊かな文化のあることや人類の進歩についての信念を伝えるべく執筆された一冊.主人公のコペル君が経験したことが一章ごとに書かれており,おおよそそのあとにおじさんのノートと題し,筆者の見識が綴られている.「いつでも自分の人間としての値打ちにしっかりと目をつけて生きること」,「消費中心の生活の中で,日々生み出しているある大きなものがある.それが何か自分自身でみつけること」といった読者に対する強いメッセージが特徴.良書.



気象学における非弾性力学入門

気象数値モデルの方程式系の中でも,非弾性近似したものに力点を置いて丁寧に解説された専門書.現象の時空間スケールと数式との関係,数学的な記述方法,物理的解釈について順を追って理解していくことができる.



雨はどのような一生を送るのか

「地球ではどうして雨が降るのか」,「その雨は何処へ行くのか」といった純粋な疑問に対し,現在の科学的知見を基に懇切丁寧に答えている一冊.重要な法則・発見をした人物のエピソードや,筆者の経験などが随所に盛り込まれているところは,本書をとても読みやすくしている.特に,大気だけでなく,地上・河川・地中といった陸地での雨の行方が非常にわかりやすくまとめられており,初学者でもわかりやすいと感じた.また,地球大気を記述する上でタイタンと比較していたのはとても面白かった.関連する原著論文を読み,雨の一生についてさらに理解したいと思わせてくれる一冊.



系統樹思考の世界

学生時代の恩師に自分の研究内容が「分類学みたいだね」と言われたことがあった.当時は分類学なんてなにも意識していなかったが,その言葉がずっと引っかかっていた.どう理解して良いかわからくて途方に暮れていた時に出会ったある種の分類学に関する一冊.自分の中で言語化出来ていなかったものを,本書でほとんど言語化してもらった.良書.



舟を編む

辞書を作る過程を知ることができ,同時に日本語の素晴らしさに気づかせてくれた一冊.広辞苑を実家から送ってもらい,字引きしながら読み進めた.大渡海の完成に十数年を要する過程は,研究や武道にも通じるものを感じた.熱意は人の心を動かし,その熱意は言葉によって伝えられる.言葉やそれを用いて構成される文章の素晴らしさに感動した.



英文解釈教室

恩師から紹介してもらった一冊.なぜ?に対する説明に重きが置かれている.私がこの本を知ったのは大学入試以降でやや遅かったものの,今となってはこの本が私の英文読解・執筆の礎である.



日本語の作文技術

恩師から紹介してもらった一冊.句読点にもルールがあることに目から鱗が落ちた.



新釈 現代文

恩師から紹介された一冊.文章読解の基本の基本.



雨の科学―雲をつかむ話

事ある毎に読み直している一冊.雨について気象学的観点から幅広く扱った一般向けの本だが,内容は文献に基づいた科学的事項を非常に読みやすく・わかりやすく書かれている.



メソ気象の基礎理論

大学修士課程時に輪読でお世話になった専門書.乾燥大気・湿潤大気に分けてそれぞれの大気に対して成り立つ方程式や仮定が懇切丁寧に記述・説明されている.絶版.



Mesoscale Meteorology in Midlatitudes

大学博士課程時に輪読でお世話になった専門書.中緯度のメソスケール気象学について網羅的にかつとてもカラフルな図を用いて丁寧に解説されている.



Radar Polarimetry for Weather Observations

仕事でお世話になっている専門書.気象レーダー観測の基礎から応用までが網羅的に集約された一冊.良書.



科学を育む 査読の技法〜+リアルな例文765

科学論文の査読について,査読者としての心得や現在の査読の仕組みについて実態が記された一冊.査読者としての心得は,自身が実践出来ているものそうでないものを含めとても参考になった.ジャーナル毎に規定が異なっていても,基本的な考え方は分野を問わず共通していることを認識した.何度か査読を引き受けてから本書を読むと良いかもしれない.



最後の授業 ぼくの命があるうちに

カーネギー・メロン大学の故ランディ・パウシュ教授による最終講義の図書版.講義では,主にランディ氏が夢を叶えるためになにをすべきかが述べられる.講義内に散りばめられたメッセージは,自身の家族に向けられたものであった.人間としてとても基本的なことが述べられているものの,我々が見過ごしがちなことを明確に示してくれている.良書.動画もおすすめ.



Rainfall: State of the Science

観測・微物理構造・数値モデリングと多岐に渡る観点から,ただ一つ「降水」について論じられている贅沢な一冊.前半では,複数のピークを持つ粒径分布についての激しい議論が理路整然と書き下されており,非常に読み応えがある.後半では,気象レーダーでの量的降水予測,さらには降水の統計解析の留意点,衛星搭載レーダーへと話題が移っていく.良書.