以前、Signal Processing Methods という記事を書いた。言葉だけだとどうもイメージが沸かないので、実際のデータで図を描いてみることにした。最近では Python 関連の便利でたくさんのパッケージが出回っている。いろいろと試した結果、ここでは radlib を用いることにした。Python や radlib の環境構築については、こちらを参照されたい。
左図は水平偏波反射強度 (dBZ)、右図は判別結果。エコー判別は、0 で降水エコー 1 で非降水エコーをそれぞれ示す。例えば、サイト中心付近の弱いエコー域は判別結果だと 1 に近いので非降水エコーと見なせる、らしい。これだとブラックボックス過ぎてよく分からないので、幾つかの要素を詳しく観てみる。
左図は上図と同じ、右図は偏波間位相差。偏波間位相差は、水平偏波の位相変化と垂直偏波の位相変化との差。受信電力から求めた場合は受信電力偏波間位相差と言うらしい。今回示した図は、受信電力偏波間位相差からノイズを取り除き、スムージングを掛け、正常値以外の領域では無効値になっている模様。このため、値域は -180度〜180度に収まっているようだ。粒経の大きい扁平な雨滴が観測された場合、垂直偏波よりも水平偏波の位相が遅れる。これを利用して降水強度推定にも利用される。判別結果と偏波間位相差とを見比べると、偏波間位相差の値が算出されている領域はほぼ降水エコーとなっているようだ。偏波間位相差の有効・無効も影響しているかもしれない。
右図のみ偏波間相関係数に変更。偏波間相関係数は、水平偏波と水平偏波との信号の相関係数。ある観測領域内の散乱体について一様性の度合いを表す。値域は 0〜1 をとり、1 に近いほど一様性が高い (雨粒)。雹や融解層内の雨滴は一様性がやや低い。また、生物やクラッタの場合は一様性が低い傾向にある。判別結果と偏波間相関係数とを見比べると、サイト中心付近で非降水エコーと判別された部分は、なるほど偏波間相関係数の値が低い。一方、水平偏波反射強度で比較的値の大きいエコー域でかつ偏波間相関係数の大きい領域は、降水エコーとして判別されている。
右図のみ反射因子差に変更。反射因子差は、水平偏波と垂直偏波の反射因子の比 (或いは、強度 (dBZ) の差) の値で、散乱体の縦横比を表す。典型的な値域は -4〜10 dB。球形に近いほど値は 0 に近く、扁平な形状ほど値が大きくなる。反射因子差の値を観てみると、サイト中心の南側にあるエコー域で負の値と正の値とが混在している。この領域は、偏波間相関係数の値も低く、判別結果も非降水エコーになっている。
以上、サンプルデータで概観してみたものの、それぞれの特徴を観る上で十分な情報量が含まれていたように思う。続いて、適切な反射強度・降水強度算出に欠かせない、降雨減衰補正について述べる。
レーダービームが強雨域をレンジ方向に通過した場合、強雨域のレンジ後方で送信電力(レーダー側では受信電力)がレーダーの波長によっては著しく減衰してしまう。この減衰量を推定し、降雨による減衰としてを補正するのが降雨減衰補正である。ここに書いてあるコマンドを少し変更し、降雨減衰補正前・降雨減衰補正後の図をそれぞれ作成した。ドイツ気象局管轄の Feldberg と Tuerkheim というレーダーサイトの合成図になっている。
降雨減衰補正後のデータは、降雨減衰補正前に比べ緑〜黄色 (例えば 100 mm/h 以上) の領域が広くなっており、適切に補正されている、らしい。パラメータは恐らくこの地域にあわせてあるのかもしれない。この例では、減衰補正の手法として Modified Kraemer algorithm が用いられているようだ。補正方法は他にもあり、オプションとして用意されている他、各国でやり方も異なるようだ。
初学者にも使いやすいライブラリを提供してくださっている radlib プロジェクトやその関連プロジェクトに関わる方々に対し謝意を示す。
Miscellaneous — Apr 28, 2021
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